2012年 10.9×16.0 P435 帯付 ページ折れ跡、鉛筆引き線消し跡
“近世思想史の流れを変えた一冊!
江戸の秩序を支えたのは朱子学などではない。
大名も民衆も共有した政治常識は、『太平記』講釈が形成した!
歴史学、国文学などにも影響を与えた名著、待望のライブラリー化。”(帯文)
“江戸前期、大名らに『太平記』を講釈する者たちのタネ本は出版されるやベストセラーとなり、その主張は、武家や思想家のみならず、民衆レベルにまで浸透した。
楠正成を理想的な為政者=仁君に仕立て上げ、戦国の衣を脱いだ大名たちに統治のマニュアルを、民衆たちに修身斉家の指針を与え、共通の政治常識を涵養した『太平記秘伝理尽鈔』の思想こそ、江戸の秩序の根幹である!
―大胆かつ綿密な論理と実証によって、近世史、思想史の通念を一新した画期的論考!”(カバー裏紹介文)
目次:
【序章 「太平記読み」研究序説 ―近世初期における「国家」と「仏法」】
一 「太平記読み」とは何か ―問題の所在
1 近世史・思想史研究の現在/2 関係意識の破綻 安藤昌益/3 「太平記読み」とは何か {・「太平記評判秘伝理尽鈔』の講釈 ・ 『理尽鈔』奥書 ・ 『理尽鈔』講釈の伝授・受講 ・『理尽鈔』講釈師の存在形態 ・ 『理尽鈔」講釈の転機―出版業の成立 ・『理尽鈔』研究の現状}
二 中世から近世への政治思想の転換と「太平記読み」
1 『太平記』における「国家」と「仏法」/「太平記読み」における「国家」と仏法」 {・寺社勢力の軍事力保持への批判 ・呪術力の否定 ・国家護持者の正統意識への非難 ・政治への参画の否定と経済的繁栄の告発 ・あるべき「仏法」と現実の「仏法」 ・新たな仏法王法相依論}
3 近世初期における「国家」と「仏法」
【第一部 「太平記読み」と近世の政治思想】
第一章 近世初期における楠正成像の転換
1 『太平記』世界の正成 {・『太平記』の正成像 ・林羅山の正成像}/2 『理尽鈔』の正成像 {・『理尽鈔』の正成像 ・仁君=正成像の形成}/3 正成像の転換の諸相 {・山鹿素行の正成像 ・態沢蕃山の正成像 ・明君=正成像の定着}
第二章 「太平記読み」の忠と佐藤直方
1 「太平記読み」の忠 {・領主―家臣・領主―民の関係 ・「国」への忠}/直方の「太平記読み」批判 {・直方の忠 ・根本としての「自の合点」 ・直方の義士否認論}/3 「太平記読み」の波紋 {・赤穂義士劇の世界 ・楠正成物の流行 ・直方の危機意識と「太平記読み」}
第三章 「太平記読み」における政治と学問
1 「太平記読み」の政治論 {・「国」と領主・家臣·民の関係論 ・撫民と天道思想 ・理を破る法 ・時相応の政治と支配のしくみ}/2 「太平記読み」における政治と学問 {・学問の政治的効用 ・学問と道徳 ・武将·領主にとっての学問}/3 一七世紀の思想界と「太平記読み」 {・素行の学と「太平記読み」 ・蕃山と「太平記読み」 ・藤井懶斎と「太平記読み」 ・「太平記読み」と佐藤直方}
【第二部 「太平記読み」と領主層の思想 ―幕藩領主の思想史的研究序説】
第四章 金沢藩制の確立と「太平記読み」
1 『陽広公偉訓』の基礎的研究 {・史料としての大名家訓 ・『偉訓』の思想の出自 ・思想的背景としての「太平記読み」 ・『偉訓』の思想的特質と「太平記読み」}/2 光高・『偉訓』・「太平記読み」 {・光高と「太平記読み」 ・光高の思想傾向と『偉訓』 ・光高の思想形成と「太平記読み」}/3 金沢藩制の確立と「太平記読み」 {・「太平記読み」の秘伝と改作仕法 ・利常、改作仕法,「太平記読み」}
第五章 岡山藩制の確立と「太平記読み」
1 横井養元探索 {・横井養元の実在と先祖横井土佐 ・もう一人の横井養元 ・横井養元の墓 ・養元「墓誌銘」}/2 池田利隆・光政と横井養元 {・養元と利隆 ・養元と光政}/3 光政と「太平記読み」 {・養元と利隆 ・養元と光政}/3 光政と「太平記読み」 {・光政印『理尽鈔』巻三と池田家系図の楠胤説 ・池田家と陽翁 ・光政と『恩地聞書』·『理尽鈔』 ・岡山藩の軍用書と『理尽鈔』}/4 光政と「太平記読み」の政治論 {・政治の理念と要諦 ・支配の制度と運用 ・光政の「覚」と『理尽鈔』 ・軍法の必要性}
六章 池田光政の思想形成と「太平記読み」
1 「太平記読み」の宗教論・学問論 {・宗教論 ・学問論}/2 光政の宗教政策と「太平記読み」 {・第1期(正保一〈一六四四〉〜承応三〈五四〉)―寺社の支配体制への組み込み/第2期(明暦一〈一六五五〉〜寛文五〈六五〉)―儒式祭祀の導入と仏教に対する二面的態度/第3期(寛文六〈一六六六〉〜七)―大規模な寺社整理と寺請から神道請への転換}/3 学問をめぐる確執と「太平記読み」 {・光政と出羽との確執 ・蕃山との確執と対立の構造 ・「太平記読み」と光政の思想形成}
【第三部 「太平記読み」と民衆の政治意識--「太平記読み」を軸とした政治思想史
第七章 幕藩制の確立と民衆の政治意識
1 「民は国之本」条目とその波紋 {・「民は国之本」条目/・直方談の検証}/2 「民は国之本」と「太平記読み」 {・「民は国之本」と思想家 ・「民は国之本」条目と「太平記読み」 ・「民は国之本」と正俊}/3 「民は国之本」と『河内屋可正旧記』 {・「民は国之本」と農書 ・『河内屋可正旧記』 ・可正の正成像と『理尽鈔』 正成像の増幅 ・聖門に入った正成 ・芸能における正成 ・『太平記』・「太平記読み」と『可正旧記』}4 「太平記読み」の政治論と可正の政治意識 {・政治論の受容 ・政治論の修身・斉家論ヘの読みかえ ・村役人の政治論 ・可正の思想形成}/5 「太平記読み」を軸とした政治思想史
【終章 「太平記読み」から安藤昌益へ】
一 安藤昌益の思想形成と「太平記読み」
1 昌益の思想的基盤の発掘 {・昌益研究の方法 ・『博聞抜粋』の基礎的研究}/2 確龍堂正信と「太平記読み」 {・正信の政治思想と「太平記読み」}/3 確龍堂良中と「太平記読み」/4 安藤昌益の歴史的位置と「太平記読み」 {・昌益の思想形成について ・新たな政治思想史の構想について}
二 再び、「太平記読み」とは何か―政治の展望 {・社会通念・常識という視角 ・基軸の転換―顕密仏教から「太平記読み」へ ・知を媒介するメディア ・生み出された課題}
あとがき
平凡社ライブラリー版 あとがき
解説―名もなき大思想家の発見(川平敏文)