昭和3年初版 四六判 P252 裸本 全体に経年によるヤケ、汚れ、時代シミ、少イタミ 数ヶ所に薄く鉛筆引き線消し跡
旧字旧かな遣い
森田療法で知られる著者が、狐憑き、犬神などの憑依現象、宗教的迷信、幻覚などの現象について神経学の立場から考察を加える。
“吾人は、自分自身の思想、行為の正邪、是非を批判するに、単に自己にのみ即して、決して之を知ることの出来るものではない。
然るに世に、精神病者に妄想と称するものがあり、又無智蒙昧の人、若くは精神発達の偏頗なる変質者に、迷信に耽溺するものがある。
《略》
此妄想と迷信との中心論点は、精神病学上、パラノイア即ち偏執病問題と称する大問題であるが、世の相当自身のあるものである。”(序文より)
目次:
第一 諸言
第二 妄想の実例
{其一 動物電気をかけられるといふ者/其二 某大臣を我父といふ者}
第三 妄想とは何ぞ
{煩悩と妄想/迷信の例/判断と信念/宗教的信仰/主義、僻論/妄想の定義}
第四 妄想の発生
発生の条件 {一 意識障害に関係して起るもの(夢と妄想-譫妄-虚談症)/二 感情と妄想発生との関係 (感情障碍より起る妄想-地獄に旅立する抑鬱妄想)/三 精神薄弱に関係して起る妄想(荒唐無稽の妄想-老耄から起る妄想)/四 幻覚に関係して起る妄想 (幻覚性妄想-幻覚の種類-幻覚に似而非-幻覚の成立)/五 原発性妄想 (義家の鎗を献上せんとした妄想患者-毒薬と思ひ違へて昏睡に陥つた女-鰒に食傷して鰒を幻覚した女)/六 特発性妄想}
第五 妄想構成の過程
{一 潜想期/二 推量期/三 編成期/四 確認期/五 痴呆期/妄想は常人の迷妄を拡大したもの}
第六 妄想性痴呆症の病理
第七 巣鴨病院の蘆原将軍
第八 偏執病の病理
{好訴妄想の例 其一/同上 其二/同上 其三/直訴狂の例 其一/同上 其二/訴訟妄想(妄想性痴呆}
第九 宗教的妄想
{宗教的妄想 其一(自称仏王家)/同上 其二(神道教会を計画した男)/同上 其三(生如来の数へ歌)/同上 其四(文字の発明改良家)/同上 其五(蕎麦のみを食する「しやか京宗」の開祖)/同上 其六(お太陽様の御告を上奏せんとせる女)}
第十 天理教祖
第十一 金光教祖
{何れも神懸の迷信/総括}
第十二 妄想の診断
第十三 迷信発生の内因
{自己保存欲/萬物皆心ありとの思想/感情の知覚、記憶、判断に及ぼす影響/縁起といふ事/自ら欺く事/注意若くは意識状態と判断との関係}
第十四 迷信発生の外因
{迷信の外因/迷信の一般素因/迷信の誘因/迷信の固定及び経過消長}
第十五 迷信とは何ぞ
{迷信に関する諸氏の定義及び其批評/知識と信念/科学と芸術、哲学と宗教とによる観察、描写/迷信の判定/物質的断定と精神的判定/迷信の定義/迷信の分類}
第十六 迷信の弊害及び予防、救済
{迷信者には不思議がない/物には必ず利害がある/北条氏は迷信のために滅びた/神仏となりて金銀作る事に賞で給ふべしや/信長妖僧を斬る/治病や欲望に対する迷信の弊害/迷信の利益/妄想の療法上の注意/迷信予防上の注意/迷信は之を説服、抑圧してもいかぬ/迷信を去るは正しき人生観を作るによる}
第十七 正信とは何ぞ
{実在とは認識である/直覚必ずしも物の正否を定むる事は出来ぬ/認識、判断は気分によつて違ふ/意識は認識の正否を定むる標準とはならぬ/正信とは事実を尊重する敬虔の心である/心理とは科学的方法で定められたものである/科学と宗教とは相排するものではない}
第十八 神懸の現象に就いて
{神懸とは何ぞ/降神術/憑依の種類/憑依の起る原因的関係/憑依現象/精神病者に来る憑依現象/他人の精神感通が所謂自働書記には現はるゝ女の例/神霊の感通により世の中の切替をなさんとする男の例/神憑の説明}
第十九 迷信の精神病
{迷信治療は暗夜に鉄砲/淫祠邪教の害毒/行者の宣告で精神病を誘発する/死霊の憑いた精神病/祈祷から精神錯乱/天理教から精神病/加持と催眠術/夫に背いて天理教信仰/迷信は無教育の女に多い/憑依の迷信/土佐の犬神/憑依の一般症状/種々雑多の憑物/猿猴の詫状/犬神を伴れに行く/祈祷で犬神憑にする/恐怖から犬神憑になる/大蛇の棲むといふ淵で蛇憑になる/犬神が身体の内を動き廻る/憑物で予言をする/祈祷と催眠術との実験/村中挙つて犬神憑になる/加持台の実験/迷信があれば誰でも憑物にかゝる}
附録
{一 姓名判断/二 淘宮術/三 禁厭/四 読心術/五 女学生と迷信/六 女の十九の厄年}