1992年増補1刷 A5判 P372+図版目次P15 カバー袖折れ跡、内側薄く時代シミ 本体表紙および遊び紙時代シミ多 扉ページ裏側剥がし跡 天時代シミ多、小口少時代シミ
“…美術における右と左の問題は、概していえば、西洋、ことにキリスト教美術に関する限り、「神の御手」によって、右、左の価値観が固定していて、それが造形されるときには、比較的に明確な形をとる。
しかし、それが東洋となると、きわめて複雑となってくる。というのは、東洋美術の根底には仏教思想が一貫して流れてはいるものの、それに加えて、中国古代思想や儒教などに影響され、左右の優劣関係がたえず一定しないせいで、美術の面においてもそれが大きく左右しているのである。したがって、西洋美術のようには割り切れないことが多い。
このように、右と左に対する東西の相異なる考え方が美術にどのように反映するのかは、きわめて興味深いものがある。本書は、西洋、日本、東洋の各美術史を専攻する研究者の立場から、この問題をいかに理解しているかを述べたものである。”(本書巻頭「はじめに」より)
目次:
はじめに
序章 東洋と西洋
{〔一〕用語について/〔二〕優劣について/〔三〕反転について/〔四〕方位について}
【第一編 西洋美術における右と左(中森義宗)】
第一章 方向性
{〔一〕天井画と壁画/〔二〕古典古代の美術/〔三〕浮彫りと写本彩飾}
第二章 美と左右
{〔一〕肖像/〔二〕鏡映像/〔三〕シンメトリー/〔四〕遠近法}
第三章 キリスト教美術
{〔一〕神の御手/〔二〕アダムとエバ/〔三〕「最後の晩餐」と「最後の審判」/〔四〕キリストの磔刑/〔五〕マギの礼拝/〔六〕受胎告知}
【第二編 日本美術における右と左(衛藤駿)】
第一章 「右と左」と「左右」
{〔一〕「日本の「右と左」/〔二〕「左右」の語義}
第二章 「左衽」と「右衽」
第三章 方位
{〔一〕右絵と左絵/〔二〕左右=上下=東西/〔三〕優位の転換}
第四章 芸術表現
{〔一〕絵巻/〔二〕肖像/〔三〕左右の行方/〈附〉資料 ―右と左}
【第三編 東洋美術における右と左(永井信一)】
第一章 「左右観」と方向性
{〔一〕はじめに/〔二〕右遶三匝/〔三〕左遷について}
第二章 仏伝にみる左右
{〔一〕結婚/〔二〕釈尊の右脇出生/〔三〕降魔印(触地印)/〔四〕涅槃像}
第三章 仏像と寺院に見る左右
{〔一〕仏像の脚/〔二〕半跏思惟像/〔三〕仏像の白毫/〔四〕伽藍配置と塔}
【第四編 美術における西と東】
第一章 西洋美術にみる光の方向性(中森義宗)
{〔一〕神の光/〔二〕光の表現/〔三〕壁画/〔四〕システィーナ礼拝堂装飾/〔五〕天井画/〔六〕祭壇画/〔補遺〕}
第二章 日本美術にみる色と形(衛藤駿)
{〔一〕色と形 ―書画同源―/〔二〕色からモノクロームヘ ―水墨画の成立―/〔三〕中世の心 ―水墨画と禅―/〔四〕山水の意味 ―自然と人間の融合―/〔五〕晩鐘をみる ―詩境の表現―/〔六〕墨線の諧調 ―骨法用筆―/〔七〕雪舟の筆受 ―日本水墨画の成立―/〔八〕墨のいのち ―自然のうつろい―/〔九〕東洋の自然観 ―自然との対話―/〔十〕感性の指標 ―思想の顕現―}
第三章 アジアのなかの日本の木彫仏(永井信一)
{〔一〕はじめに/〔二〕日本木彫仏の誕生/〔三〕奈良時代と木彫/〔四〕造仏所の廃止/〔五〕平安初期の仏像/〔六〕西城石窟寺院の壁画/〔七〕トルファンの誓願画作成の背景/〔八〕曹衣出水/〔九〕統一新羅の金銅仏/〔十〕結び}
あとがき
増補版あとがき
図版一覧