1988年文庫版1刷 P300 カバー少汚れ、少イタミ、背少ヤケ
“かつて都大路を百鬼夜行し、一つ目、天狗、こぶ取りの鬼族が世間狭しと跳梁し、また鬼とならざるを得なかった女たちがいた。鬼は滅んだのだろうか。いまも、この複雑怪奇な社会機構と人間関係の中から、鬼哭の声が聞こえはしないか。日本の歴史の暗部に生滅した〈オニ〉の情念とエネルギーを、芸能、文学、歴史を渉猟しつつ、独自の視点からとらえなおし、あらためてその哲学を問う名篇。”(カバー裏紹介文)
目次:
序章 鬼とは何か
一章 鬼の誕生
1 鬼と女とは人に見えぬぞよき {「虫めづる姫君」の慨嘆/籠れる鬼の重之妹/四条宮筑前の君/『倭名類聚』の見解}
2 〈おに〉と鬼の出会い {鬼・神同義説/鬼と日本の〈おに〉/鬼の面貌/西行人を造る}
3 造形化のなかの鬼 {〈おに〉の訓を得た〈鬼〉字/造形化される鬼/『山海経』は影響したか}
二章 鬼を見た人びとの証言
1 鬼に喰われた人びと {阿用の一つ目鬼/初夜の床に喰われた女/あぜ倉に食われた業平の思い人/武徳殿松原に食われた女/官の朝庁で喰われた弁官}
2 鬼の幻影 {幽霊と鬼/鬼の足跡と衣冠の幻/征葥の調伏}
3 百鬼夜行を見た人びと {一条桟敷鬼のこと/百鬼夜行とは/常行・師輔鬼に遇う/竜泉寺の修行者鬼に遇う}
4 牛頭鬼と羅刹女と地獄卒 {牛頭鬼による殺害事件/羅刹に出遇う/涅槃茶鬼の描写/現世を歩く地獄卒}
5 衰弱する〈ぬし〉の系譜の鬼 {〈ぬし〉とは何か/家霊としての〈ぬし〉/左大臣融の霊鬼/人なき堂屋に棲む〈ぬし〉の鬼/鬼をよせつけぬ心とは/冷泉院の水の精の翁}
6 完成にむかう鬼の典型 {羅生門の鬼/鬼の出現する場所/「肝だめし型」から「武勇譚型」へ/切断される老母の手/武勇者と美女/他界との問答と絆を切る剣}
三章 王朝の暗黒部に生きた鬼
1 鬼として生きた盗賊の理由 {童子を名のる大江山の鬼/二つの大江山と酒呑童子/山拠の生活をもった人びと/王朝暗黒社会の不可解性/鈴鹿御前立烏帽子/鬼使い千方/鈴鹿御膳の問題点/悪路王叛乱と鈴鹿の鬼/鬼の拠点としての鈴鹿山・関山/戸隠の鬼女/女盗人のものがたり/鬼族としての盗人魂/鬼として生きた特殊階級の人びと/平六の社会復帰}
2 土蜘蛛の衰亡と復讐 {土蜘蛛誅殺と先住権/土蜘蛛の復讐}
3 雷電と鬼 {日本の神と雷電/雷電と鬼/菅公の御霊としての雷電}
4 鬼の心と呪術の世界 {生きながら鬼となること/愛の変節を責める女の鬼/六条御息所と羞恥の鬼/砧の怨みと鬼ごころ/恋の鬼葛城上人/鬼つかいと外術}
四章 天狗への憧れと期待
1 幻の大会《だいえ》 {天狗幻術の「大会」/天狗幻術は作用したか}
2 天狗と飛行空間 {天狗の星/天狗と神仙思想/鬼の〈あはれ〉と天狗の〈おかし〉/花月少年と天狗思想}
3 無道の智者 {無道の智者としての天狗像/猿田彦とベシミの面/迫害される天狗/天狗説話の生長と展開/姿なき風雅}
4 天狗山伏 {山伏と天狗}
五章 極限を生きた中世の鬼
1 中世破滅型の典型としての般若 {小面と般若/半蛇と般若}
2 空無の凄絶をもった美―「黒塚」考 {黒塚歌話と鬼/シカミ「黒塚」と般若「黒塚」/「黒塚」の美学}
3 白練般若 {〈真〉の般若六条御息所/般若の〈艶〉と〈怨〉/般若の悟り}
4 一言主の愁訴と棄民山姥 {一言主の愁訴/山に棲む遊女/山に棲む鬼女山姥/山姥の哲学}
終章 鬼は滅びたか―あとがきにかえて
解説 有情の極みとしての鬼(谷川健一)