1997年初版 A5判 P537 カバーおよび帯スレ、キズ、背ヤケ大、端少破れ ページ端ゆるく波打ち
“中世ヨーロッパ社会における記憶の働きに初めて光をあてた画期的研究書。
関係を明かす図版30点収録。”(帯文)
“人間がもつ創造的能力のうちで最高のものは何か。現代人ならだれもが「想像力」をあげるだろう。ところが中世ヨーロッパでは、「記憶力」こそが、人間の最も偉大な能力だった。当時、多くの書物は図書館に収められ、人々はもっぱら書物を記憶することで学問を収めなければならなかった。そのためにさまざまな記憶術が考案され、教育されていった。そして、書物の体裁やレイアウトも、テクストをより記憶しやすいように工夫された。書物は「記録のための道具」ではなく、「記憶のための道具」だった!
本書は、古代ギリシア・ローマ以来の記憶モデルの変遷を跡づけ、中世に開発された奇怪な記憶術の数々を紹介するとともに、記憶術が社会制度・伝統に対して果たした役割、文芸に与えた影響、さらには読書と記憶、著述と記憶の関係、そして数々の貴重図版とともに、記憶のために書物のレイアウトがいかに工夫されていたかを明らかにする。”(カバー袖紹介文)
目次:
序論
{記憶力と想像力の地位/トマス・アクイナスの記憶力/記憶のテクニック/書く能力は記憶力を低下させたか?/中世の記憶へのアプローチ}
第一章 記憶の諸モデル
{「目で見るもの」としての記憶/「記憶=蝋引き板」モデル/言語による表象のとらえ方/記憶術のシステム/「記憶=貯蔵室」モデル/「蜜蜂」「鳥」の比喩/「小銭入れ」「保管所」の比喩/「箱」の比喩}
第二章 記憶の神経心理学的解釈
{記憶を作り出す内的感覚働き/記憶とイメージ/知覚認識に身体はいかに関わる?/記憶イメージの形成のされ方/想起のシステム/記憶と人間の性向/建築的記憶術/ソヴィエトの記憶家Sの記憶技法}
第三章 初歩の記憶法
{番号グリッドによる記憶術/「分割」と「組み立て」の効用/意味単位に従う記憶/聖書における章と節の分化/記憶用座標としての出典表示/「しるし」による整理収納/記憶における「しるし」の価値/テーマ別用語索引システム}
第四章 記憶術
{建築的記憶術の復活/記憶を補助する動物寓話集/記憶術における「場所」/奇異な「イメージ」の配置/鮮明な「イメージ」の配置/記憶術の中世的特色/「内容の表象」の重要性/学術としての記憶術の再評価}
第五章 記憶と読書の倫理
{口伝による情報の伝達/訓練された記憶と書物/消化瞑想活動としての読書/記憶共有体験としての読書/音読と黙読の機能の相違/記憶に関わる詞華集の役割/倫理的素養を育てる記憶/中世の読書の本来の姿}
第六章 記憶と権威
{著述と読書の補完関係/記憶による著述の諸段階/記憶の中から創案を生み出す方法/頭の中で草稿を作り上げる方法/記憶術的な著述の構成例/テクストの書き込み=「権威」の獲得/注釈書の記憶用レイアウト/真の模倣と偽の模倣}
第七章 記憶と書物
{テクストに含まれる絵《パンチュール》とことば《パロル》/写本の装飾に込められた意味/箱舟に関するフーゴーの記憶図表/箱舟全体の構造設計/フーゴー・デ・フォリエトの鳩と魔の表象/本のレイアウトと記憶効果/絵入り図表・輪形図表の機能/写本の装飾の実利的効用}
著者あとがき
付録A 「しるしに関わる三つの大きな条件について」(サン・ヴィクトルのフーゴー)
付録B 『善について』第四論考第二問「賢慮の諸部分について」(アルベルト・マグヌス)
付録C 「人為的記憶について」(トマス・ブラドウォーディン)
原注
参考文献
人名索引
監訳者あとがき