2009年初版 P414
“万物の死の予感から逃れ、生の中に偏在する死を逃れて錯乱と狂気のうちに太陽で眼を焼くにいたる青年ベッソン(プロヴァンス語で双子の意)の13日間の物語。ひりひりする緊張感を孕みつつ、叙事詩的な世界を生み出してきたル・クレジオは、2008年、ノーベル文学賞を受賞。その彼のデビュー作『調書』以前に書き始められた長編の、待望の文庫化。”(カバー裏紹介文)
目次:
初めに雲があった
第一章 フランソワ・ベッソン。フランソワ・ベッソン、部屋のなかでテープレコーダーを聞くこと。アンナの告白の発端。ポールの逃亡。ベッソンの母の忠告。復讐
第二章 道路で。眼。フランソワ・ベッソン、最初のカフェで新聞を読むこと。こわれたコップ。フランソワ・ベッソン、第二のカフェでフリッパーに興ずること。兄弟との出会い。
第三章 フランソワ・ベッソン、ジョゼットとデートすること。交通事故。ジョゼット、弁解したがたこと。郵便局で。二人が自動車をはしらせ丘の頂上におもむいたこと。ジョゾキ魔。
第四章 フランソワ・ベッソン、眠れる女を見つめること。ベッソン、その女の肉体のカルテをつくること。大音響。庭園で雨にうたれたまま杭をぐるぐる回る、鎖につながれた一匹の狆。新聞売りの盲人との会話。樽のなかに住んでいた男の問題。
第五章 ベッソン、仕事に精を出すこと。娯楽。窓から見えるもの。小説「黒人オラジ」。フランソワ・ベッソン、いかにして無気力に打ち克ったかということ。
第六章 赤毛の女との出会い。ベッソンの星占い。リュカ(四歳半)との短い会話。尊敬された男。いかにしてフランソワ・ベッソンと赤毛の女は台所のリノリュームの上で寝たかということ。またも夜が。
第七章 フランソワ・ベッソン、日の出を眺めること。野菜市場。ベッソン、川床を見つめること。たばこをくわえた男との短い会話。ベッソン、荷物をまとめること。テキサス・ジャックの冒険。第二十六話、インディアン、クロタールとの戦い。
第八章 嵐。暴風。フランソワ・ベッソンとマルトの会話。愛の芽生えとなりえたもの。颶風のなかの散歩。海。不死身になるための方法。稲妻の素描。
第九章 フランソワ・ベッソン、女の家から逃げだすこと。インディアンは狼を殺すか?鬼。黄色い大きな犬の臨終を眺める人びと。激怒。フランソワ・ベッソン、書類を焼き捨てること。町の峡谷〈キャニオン〉のなかで。食べなかった食事。水のない水の球面。
第十章 フランソワ・ベッソン、飢え、渇き、孤独を識ること。パンの匂い。教会にひざまずく女。フランソワ・ベッソン、神に首を垂れること。懺悔。パイプ・オルガン。いかにしてフランソワ・ベッソンは乞食の術を心得たか。死にたがっている老婆の恐ろしい目つき。
第十一章 河は街なかの河筋を伝わって流れること。徒刑場のフランソワ・ベッソン。シルジェルコビバの話。夜の敵軍の来襲。フランソワ・ベッソン、見知らぬ男を殺すこと。街の広場の下の、暗いトンネルのなかの歩み。
第十二章 公衆便所で。フランソワ・ベッソン、旅に出ること。歩行および周囲への注視。飛行船から眺めた大地。永遠の息吹き。一羽の鳥が大空を飛びまわる。お坊さんと燭台をめぐって開眼でかわされた二人の子供の会話。過去と未来のあいだで。いかにしてフランソワ・ベッソンは太陽を見つめて首になったか。
第十三章 社会。汽車のなかで。一人の少年が最初のたばこをすうこと。観光バス。母。アンナの告白の終わり。自殺の音。
いま、夜の境界のむこう側に
解説
文庫版のための解説(いしいしんじ)