昭和58年初版 菊判 P475 函イタミ、汚れ ビニールカバー少キレ 地および小口シミ 裏遊び紙ラベル剥がし跡
「日本の民俗学の諸問題の背後にあるのは古代人の世界観もしくは宇宙観である。しかしそれは知識人のばあいのようにかならずしも意識的なものではなく、生活領域の中でながい時間をかけて伝承されてきた慣習の枠組としてとどまっている。だからといって自覚されない古代人の世界観や宇宙観をとるに足りないものとすることはできない。狭隘な生活空間に属していた過去の日本人が、それに見合うような、小さく、せまく、稀薄な世界観や宇宙観しか持ち得なかったと考えるのは、現代人の陥りやすい錯覚である。むしろ時代をさかのぼるほど、古代人の世界観や宇宙観は、民俗的な認識の羈絆として、個々人を明確に繋縛していたというのが実情である。閉じられた社会にあってこそ、生と死、現世と他界についての意識は深まらずにすまない。その背後にはまぎれもなく、宇宙観や世界観が横たわって、古代人の意識を支えている。」(序文より)
目次:
序章 古代人の宇宙創造(谷川健一) {一 古代人の宇宙観/二 洪水伝説と人類の誕生/三 他界観と宇宙観}
第一章 太陽と火(大林太良) {一 太陽の誕生と死―海辺と洞窟/二 王国の太陽祭祀/三 太陽を射る話と朝日長者/四 日光感精/五 《日のお伴》/六 発火錘と火打石/七 三つの火の起源神話/八 琉球の火の神/九 火と太陽・火と水/一〇 媒介者としての火/一一 火焚き乙女/一二 火祭りの諸相}
第二章 月と水(松前健) {一 月の民俗の研究法/二 月と不死の信仰と説話/三 月と若水/四 月船の伝承と漁民信仰/五 月と植物および農耕}
第三章 星と風 {一 中国から日本へ―星をめぐる民間信仰―(窪徳忠) (一)中国古代思想と星の信仰・(二)日本での民間受容/星と風をめぐる観念と民俗(谷川健一) (一)スバル星をめぐって・(二)風に見る民俗の諸相}
第四章 古代人のカミ観念(谷川健一) {一 玉の緒/二 タマとカミ/三 カミとモノ/四 カミの訪れ}
第五章 葬りの源流(土井卓治) {一 立棺と屈葬/二 石の枕/三 死者へのおそれ/四 両墓制を遡る/五 魂呼ばい/六 霊魂の諸相/七 墓地と石塔}
第六章 他界観―東方浄土から西方浄土へ(田中久夫) {一 常世の国―東方浄土観/二 神・夜・海と黄泉の国/三 夕陽への信仰―無量寿如来/四 山と農耕民―鬼魅の世界―/五 金峯山浄土―末法の到来―/六 天台浄土教の発生―死の観念の変化―/七 竜華三会と西方極楽浄土/八 夕陽への讃歌}
第七章 日本人の再生観―稲作農耕民と畑作農耕民の再生原理―(坪井洋文) {一 現代人にとって再生とは何か/二 柳田国男のハレ観/三 折口信夫のハレ観(1)/四 折口信夫のハレ観(2)/五 ハレ・ケ研究の課題/六 稲作農耕民の再生観/七 畑作農耕民の再生観/八 再生原理発見の方法}
月報:
座談会 韓国と日本の民俗文化―異質と類似をめぐって―(谷川健一、張籌根、大林太良)/長野県における民俗研究の足跡(向山雅重)/連載2 冷泉家の年中行事 節分・初午