
昭和63年 21.0×26.0 P85 表紙少ヤケ、少汚れ、角僅折れ跡、端少シミ汚れ 目次ページ端少汚れ
“人が語り伝えた〈物語〉の山がある。なぜ人は、〈物語〉なしに生きられないのか。
人がいると、いや語り出すと、そこに〈物語〉が誕生する。それを作り、伝えてゆく人の共同幻想行為は、神話・叙事詩、あるいは神学や小説、また批評などの形式を産み出した。形式はつねに時代の衣装をまとうだろう。そしてまた、新しい衣装を作り出すだろう。
しかし、これらに共通して流れる〈物語性〉を問うことは、これまでに存在し、かつこれからも存在するであろう人類全体の重さに等しい問いかけだ。そして、〈物語〉を産み出す人類の行為は、まるで夢を食べ続ける獏の姿に似ているともいえる。
獏のように食べて、人はまたその夢を排泄する。この遠大な行為、この絶望的な多産、そして豊饒。つまりは、〈物語伝説〉なしには生きられない人類がいるということだ。
さて、それでも、人の、人による、人のための〈物語伝説〉とは何なのか。人類はどれくらいそれらを堆積させて、宇宙の周期をひとめぐりするのだろうかという、茫然とした思いにかられるのである。 その後、その〈物語伝説〉の山はどこへ行くのだろうか。…”(本書巻末「editors' column」(編集後記)より)
目次:
【特集 物語伝説】
トール・テール アメリカ的なわめきの物語(亀井俊介)
「物語」と「世界」 物語有機体説(田中優子)
閑話休題」のあとさき」 中国における物語のシークエンス(中野美代子)
物語が生成する場 小栗判官をめぐって(対談:廣末保、小松和彦)
死がよしやことわりならば 『シャー・ナーメ』に見るペルシアの悲劇的物語(五十嵐一)
ベンガルの泥棒のはなし(臼田雅之)
物語についてとりとめなく考えること(小林雅之)
ケルト妖精譚の語り(井村君江)
ロビン・フッド伝説(上野美子)
滅びと礎の物語 『ニーベルンゲンの歌』と『ヴィルヘルム・テル』(新井皓士)
メルヘンの起源(鈴木晶)
聖書の〈語り〉 『ヨブ記』を中心に(由良君美)
ブッダの物語性 (奈良康明)
〈物語伝説〉ランダム
無と全体性のドラマ(高松次郎)
東京写真物語(荒木経惟)
広告における物語性(川崎徹)
【連載】
〈ふらねーる〉建築の制約と表現(團紀彦)
〈風景劇場15〉宮本武蔵 伊勢の旅(海野弘 写真:土田ヒロミ)
〈ドナルド・エヴァンズへの架空の通信11〉船の地獄へ(平出隆)
〈「明るい茅屋」近代画の内景へ11〉瑛九 根源としての夢へ(芥川喜好)
〈同時進行の物語・第二部〉名古屋城内河童激突(石山修武)
〈「辺境」の商品14〉くるぶし飾りの真珠と牢獄ですすった胡椒水(辛島昇)
〈中国的空間のアルケオロジー7〉廃墟 (Feixū)はいきよ(村松伸)
【五大陸情報】
〈ポルトガル〉リスボンが燃えた(管啓次郎)
〈イスラエル〉パンツをぬいだユダヤ人(細川周平)
〈パリ〉ベルリンの椅子(港千尋)
〈ニューヨーク〉見えない手(佐藤守彦)
〈フロリダ〉タンパ湾にハリケーン・ギルバートの高波が打ち寄せた(今福龍太)
〈シネマ〉字幕屋(武満真樹)
〈レニングラード〉レニングラードの熱狂(沼野充義)
〈中国〉大陸を旅する外国人(西澤治彦)