2004年 文庫判 P301 カバー時代シミ、少イタミ 裏表紙から末尾数ページ、およびP86下角折れ跡
“「江戸は極楽である、しかし失われる運命にあった極楽である」 ―こう言ったのは福沢諭吉だった。経済的な平等政策がいきわたり、一種社会主義的な極楽世界だった、というのだ。士農工商の身分を敷き、封建秩序の下に統治されていたとされる江戸時代が、なぜ「社会主義的極楽」なのか。支配される“自由な庶民”と支配する“窮屈な武士”、このふたつの関係が織りなす江戸世界の統治構造を、日本とイギリスとの比較を通して考察する。「かわいそうな江戸」の復権を試みる著者が、歴史学の垣根をこえ、「暗く陰惨な封建社会」にも「活気あふれる明るい近代社会」にも偏らない江戸像を提示する。”(カバー裏紹介文)
目次:
はしがき 失われた〈極楽〉
【第1部 論争の森 ―権力と所有】
第1章 森の常識、日本の非常識
{「白い共産村」の旧友再会/イギリス貴族と日本文明/「西洋芸術 東洋道徳」/吉田と家禄処分/「家禄強奪の暴政」/「アホラシキ子供ノ議論」/ヨーロッパの常識/森の常識 日本の非常識/権力と財産―維新からソ連崩壊まで}
第2章 「国体」の西と東 ―民間とカントリー
{江戸はプランタジネット王朝か/不動産「財テク」と武士の常識/生計財と身分の逆転/「主持ち」の世界 ―兵農分離と所有・帰属/くじ引きと「当座」の支配/鉢植大名/「民間」という日本語/江戸の「地方」/カントリーという「国体」/貴族と権力財/“イェーカー”の世界/「土地は預かりもの」 ―旗本沢家の受難/地頭を仕置きする}
間奏 脱封建の「先進国」
{封建脱皮の御流儀/トンネルを抜ければ雪国か/封建制は土地所有に基づく体制だということ/イギリスはいつまで封建社会だったか/伊藤博文と明治の常識/歴史感覚とマス・インテリ}
【第2部 支配と階級】
第3章 「階級」と読み書き
{江戸の「階級社会」/福沢諭吉の「カラッス」/階級社会」の錯誤/「イギリスは階級社会だ」 ということ/理論信仰と実感信仰/ロシア人革命家と読み書きの西・東/江戸の文明開化/識字率の国際比較/フランス革命と江戸の庶民教養/蔵相とたばこ屋の学問/四書五経と庶民の受験/TWO NATIONS/ 「生兵法は大怪我のもと」権力と教育}
第4章 動く江戸から「近代国家」まで
{この世の移動/移動と都市化/動かないヨーロッパの庶民/庶民の経済観念/あの世との間で間引きと餓死―非道な「封建社会」/実務と「実情」/イギリス史家の反省/銭あって食なし―江戸の食糧安保/飢饉と統治者責任/オールコックの史観/「市民社会論」と遠縁の秀才/ヨーロッパの堤防と日本の管理/近代戦争と国家の条件/維新史観の相対化}
第5章 一揆は春闘か
{「子供のいやいや」と損得勘定/一揆とはなにか/江戸の「法廷闘争」/三百代言と「愚民観」―訴訟と実務処理/「支配者」と馴れ合い訴訟/江戸ゲーム/民間に溢れる武器/ペリンさんとパクス・トクガワーナ/鉄砲とゲームのルール/農民一揆と鉄砲/「殺されるだけが奉公」―一揆の「弾圧」と交渉/一揆と「階級意識」/発砲の文化/一揆と処罰/ゴードン・ライアット/天明の江戸打ち壊し騒動/騒乱「二都物語」/厳罰と寛刑/一揆はなぜ頻発したか/「階級」とゲーム}
江戸の遺産 ―選挙と「民主主義」
【第3部 補論 ―江戸細論
A 財産としての選挙区
B 徂徠とカントリー
C 維新はブルジョア革命か
D 階級 ―江戸の伝統と国際的文脈
E 一揆と鉄砲
E 全会一致のパラドックス
あとがき
文庫版あとがき
引用図版一覧