1985年 四六判 P291 カバーイタミ、少スレ、少時代シミ、背ヤケ
「風土学」を提唱したフランスの地理学者であり、日本研究の分野でも知られる著者による日本論。
“それぞれの社会は、その文化特有の総合秩序によって空間を組織し、独自の空間性をもつ。この空間性はいかに多面的であっても、統一性をもっている。一つの文化の中では、精神的空間組織(例えば自我と環境との関係)と、社会的空間組織(例えば集団と集団との関係)と、物理的空間組織(例えば都市と農村の関係)との間に、その文化特有の関連体系が存在しているはずである。
〈略〉
日本社会特有の「空間性」というのは、自我がどのようにしてその周辺に対照され、農民はどんなふうに列島の諸平野を開発したかということでもあり、かつまたそれは、江戸城のプランでもあり、現代企業経営のいくつかの特徴でもある。日本的空間性のそれぞれの面はみないくつかの総合原理に従っている。そして、同じ原理は、それぞれの分野において、類似《アナロジー》(=比例配分)的に現われ、隠喩《メタファー》的に一つの分野からその他の分野へ移動するのである。
この本の中で、私は、いくつかの具体的な例をもとにして、日本的空間のアナロジー的な同一性を体系的に捉えようとした。……”(本書「まえがき」より)
目次:
まえがき
【I 環境に置かれた主体 空間の精神的組織化】
1主体は適応可能である
音の知覚=角田理論
知覚されたものの言語化=擬声語、擬態語
主語=言語上の主体
人称=人格の表明
自然の出現
自我の他者への共感
2 象徴は有効である
空間にリズムを与える「間」
共存状態の設定=「縁」
簡略化し、コード化する=真行草
慣習が権力の座に
形式が実質に先んじる
比喩の実践
【II わがものとなった列島 空間の技術的組織化】
1 広がりは集中しうる
外へ向かって伸びる力の欠如
深い森と魑魅魍魎
耕地のふちで
水田耕作の至上命令
居住域の集中化
構築されたものと野生のもの=領土のメタファー
2 空間は面的である
遠近法の拒否
街路は住民のものである
内側を包む
前、後、日常、大いなる日
「おく」に向かって進む
場所の発生と境界域性
【III 国土の一体化 空間の社会的組織化】
1 決定的に重要なのは細胞
内界と外界
家細胞
農村共同体
町内会
家族風の仕事場
日本という大血縁集団
2 隣が標準である
他者が相手となる時
公は私の中にある
隣人が良心をとりしきる
仲介体は細胞内にある
コンセンサスのレールに
モデルの骨組み
結論 日本的範列
注
訳者あとがき