平成3年 四六判 ソフトカバー P252 カバー背少ヤケ、端僅イタミ
“「鬼むかし」は、鬼をテーマにした一群の昔話である。それを分類すると、じつに多くの型に分けられる。
しかしその原型は、死霊と祖霊が形象化されて鬼になったものである。死霊は、「鬼一口」型の、人間を食べるという恐怖的な鬼になり、祖霊は恐怖とともに恩寵をもった二面性の鬼になった。これに仏教の羅刹鬼や地獄の鬼などが加わり、修験道の山伏や天狗とも結合して、多種多様な「鬼むかし」ができたのである。
従来、昔話は幼児教育の教材、伝承文芸として取りあげられてきたが、本書は修験道研究で知られる著者が、その豊富な宗教民俗的知見を生かして、「こぶとり」や「桃太郎」など、鬼をテーマとした昔話を分析し、その根底にある宗教的背景を探究する。 昔話研究の新たな成果。”(カバー紹介文)
“昔話は、神話のように集団の強制力をもった説話ではない。むしろ民衆の自由なコンセンサスで、いつの間にやらできあがった口誦伝承である。
昔話に特定の作者がないということは、民族の心と信仰が赤裸々に表現されているということである。したがって、昔話を分析すれば、日本人の民族性や民族宗教をあきらかにすることができるのである。 本文「鬼むかし」より ”(カバー袖紹介文)
目次:
鬼むかし
{一 昔話の意味/二 「こぶとり」の原型/三 鬼と死霊・祖霊}
鬼一口
{一 「一寸法師」の鬼/二 「大江山」の鬼と童子/三 人を食べる鬼/四 『鞍馬寺縁起』の鬼神/五 山姥問答/六 童子と山姥}
安達ケ原の鬼婆
{一 安達ケ原と「あだし野」/二 鬼婆と祖霊と巫女/三 『華厳縁起』の墓と鬼}
天邪鬼と瓜子姫
{一 天邪鬼の「鬼一口」/二 天邪鬼の物真似/三 天邪鬼と天探女}
牛方山姥と鯖大師
{一 牛方山姥型の構成/二 牛馬と鯖大師}
「食わず女房」と女の家
{一 「食わず女房」の構成/二 「食わず女房」の「鬼一口」/三 山姥のかつぐ桶/四 「食わず女房」とフキゴモリ/五 五月乙女の忌籠りと菖蒲御殿}
山姥と鉄鎖
{一 「天道さん金の鎖」の荒筋/二 日本の昔話とグリムの昔話/三 山伏の入峰修業と木登り、鎖登り}
「鬼の子小綱」の原点
{一 「鬼の子小綱」の構成とモチーフ/二 神の子と鬼の子とその子孫/三 道場法師と「鬼の子小綱」/四 鬼の子の童子と小綱/五 鬼と難題/六 鬼からの逃走と五百里車/七 鬼から逃走するためのヘラ(杓子)/八 鬼の子の自己犠牲}
「地獄白米」(「地獄浄土」「鬼の浄土」)と地蔵縁起
{一 「地蔵浄土」と「おむすびころりん」/二 「地獄白米」の団子、握り飯/三 「地蔵白米」の地下への穴/四 他界往来の鼠穴と素戔嗚尊神話/五 鼠穴から「鼠の浄土」へ/六 『矢田地蔵縁起』と白米/七 昔話の分類の問題/八 祖霊(鬼・地蔵)からの米の賜物/九 鬼と鶏の鳴声/付 「地獄白米」補遺}
瘤取り鬼と山伏の延年
{一 「瘤取り鬼」と山伏/二 「瘤取り鬼」のモチーフ/三 木の洞と鬼の出現/四 鬼の酒盛りと踊と咒師/五 鬼と霊物と眷属/六 蓮華会と延年/七 順の舞/八 「瘤取り鬼」の囃子と延年/九 古蓑、古笠、古円座/十 「瘤取り鬼」の焚火と斎燈/十一 延年の舞と郷土芸能/十二 延年の酒盛りと折敷の舞/十三 「瘤取り」の験力と神話}
「桃太郎」の鬼が島渡り
{一 「ニラの国」へ行った桃太郎/二 地獄へ行った桃太郎/三 祖霊の島から鬼ヶ島へ/四 「桃太郎」の主題と話因、話素/五 川上の異郷と桃の神秘性/六 団子と霊供/七 鬼ヶ島渡りと地獄破り/八 犬・雉・猿の問題/九 鬼ヶ島と宝物}
あとがき