1989年 文庫判 P438 天地小口僅汚れ ページ端ごく僅イタミ
古代日本における渡来系金属精製技術集団が遺した文化的痕跡について、著者の着想から出発する仮説を、各地の神社・遺跡・伝承・地名といった材料で補完してゆく民俗学的な推理。
“徹底した実証的精神と鋭い詩的感性のもとに、記紀成立以前の社会を復原し、日本文化の基底をなす金属神から農耕神への転換を明らかにする。知的作業がおびただしい具体例の考証との緊張関係の上に成立したまれに見る古代史。貴重な写真と豊富な図版に加え寺社名索引、神名・人名索引を収録。”(カバー裏紹介文)
目次:
序説 耳と目の結婚 {戦後『記紀』批判論の有効性と新たな方法論の確立/古代への架橋としての古地名・伝承・氏族・神社の組合せ/稲作文化偏重が生む日本民俗学の致命的暗部/金属神から農耕神へ―二つの文化の逆説構造/耳族の出自と鍛冶技術との関わり/北方系征服族に先行する稲と金属の民}
第一部 青銅の神々
第一章 銅を吹く人 {発端―風は金を生ずる/「夜の虹」から展開する銅鐸をめぐるドラマ/因幡の銅鐸と銅山―伊福部とはどのような氏族か/『和名抄』記す六ヵ所の伊福郷と銅鐸出土の成否/イフク、イフキ、イオキの地名も銅と関わる/銅を鋳造する人びと―歴史を貫く伊福部の職務/天日槍の本拠地、田島の伊福部神社/伊福部氏は雷神としてまつられる/蛇神雷神の暗示―多氏と伊福部氏の密接な関係/多氏の同族・小子部の鍛冶族としての役割/鍛冶に携る小人集団の典型「赤銅のヤマソタケル」}
第二章 目ひとつの神の衰落 {柳田国男『一目小僧その他』の大胆な仮説/柳田以後の諸説の検討/たたら師の職業病の投影―天目一箇神の奇怪な姿/柳田の片目伝説蒐集が見落とす金属遺跡との関連/天目一箇神が統合する片目と金属のイメージ/天目一箇神の足跡―伊勢・近江・播磨/加古川上流に明白な痕跡を残す鍛冶一族/西播地方―天目一箇神の末裔のもう一つの根拠地/九州、四国にも鎮座する金属の神/文明の先行者・金属技術集団の大和への進出}
第三章 最後のヤマトタケル {ヤマトタケルを襲う伊吹山の神の祟り/不破から三重へ―つきまとう金属精錬の影/「穴師=痛足」の用字は何を語るか/アシミタ社・アジスキタカヒコ・ホムツワケを繋ぐ唖伝承の暗合/水銀を採取する人びと/古代金属精製者の悲劇の反映}
第四章 天日槍の渡来 {古代日本を横切る異国人の大きな影/渡来人の異様な相貌が伝える鉄人のイメージ/北九州に上陸して東進する一団/但馬から播磨へ―麻打ちのタブーに隠された軌跡/砂鉄をめぐる先住神との苛烈な争い/伊和大神ゆかりの地名、スカ・イワナシは金属と結びつく/耳族との出会い―天日槍婚姻の重大な意味/系図に頻出するスカ・カマ・ヌカの由来/拡散する足跡―渡来伝承に混入する諸系譜/伝承と事実のはざまに}
第二部 古代社会の原像をもとめて
第一章 垂仁帝の皇子たち {垂仁帝の別名から推論可能な一眼の帝王像/鉱山と関わる朝日長者伝説の明白な実例/小野氏と一体の猿丸もまた金属にゆかりをもつ/鍛冶族・小野氏を指し示す朝日伝説のもう一つの暗示/垂仁帝の息子・息速別の故地と銅鐸/備前・播磨・大和/鐸石別の末裔の足跡/イニシキ、ホムツワケの二皇子とたたらとの因縁/出産・養育と金属精錬のダブルイメージ/垂仁帝の苗裔・遊部とは何か/柿本氏にみる遊部と鍛冶族との交錯}
第二章 青の一族 {青の名を携えて渡来した人びと/阿智王の伝承にこめられた金属技術流入の歴史/あやびとと多氏を結ぶ皇女・青/多氏の出自を告げる銅鐸・地名・同氏族/三つの南宮にからまる青氏の地名も多氏ト繋る}
第三章 海人族の系譜 {鉄器による開墾を投影する方法/海人系安曇と多の一族・阿蘇氏が出会う所/難波から播磨へ―安曇続の足跡を照らす連想/農業が金属利器を必要とする時/銅山を控えた古代集落のにぎわい/蛇から生まれた人びと―海人族の特異な伝承/蛇の紋章は金属との関わりを示す}
第四章 江南とのつながりと銅鐸 {南中国、九州の太い鉾を物語る耳の名の起源/耳族の二つの系列―九州系海人族と鍛冶族/金属器伝来の三ルートにさす江南の影響/銅鐸研究の有力な鍵・銅鼓と使用者への視点/土地と人間に刻まれる銅鐸の秘密/銅鐸は何のために使われたか/土地の霊の共同体祭祀は祖霊信仰に先行する}
終章 遥かな過去への遡行
巻末に補註、あとがき、解説(川村次郎)、神名・人名索引、寺社名索引、図版目録を収録