平成18年 四六判 P251 帯・カバー僅汚れ、端僅イタミ
“逃げる男、追う女
悲恋物語が怪談になるとき、恋愛と怪異が交錯する。〈女が蛇になる物語〉の謎を探る。”(帯文)
“恋ゆえに憎しみの淵に沈む女が蛇体に変身―。幻想文芸に花開く〈女が蛇になる物語〉はどのように生まれ、物語の世界へと変貌していったのだろうか。古代・中世の仏教説話にみえた女人が蛇に変身する表象は、やがて近世の小説・演劇のなかで様式化されながら、怪異な恋物語へと創り変えられていく。好色と怪異の絶妙のコラボレーション。その足跡を追い求め、江戸怪談が描き出した、一途な執念が生む“恋の魔境”へと読者を誘う。”(カバー袖紹介文)
目次:
まえがき
【第一章 江戸怪談までの軌跡】
I 女人蛇体とは何か
{文化記号としての「蛇になる女」/「小栗判官』/深泥池の蛇妖/高僧の救済/女が蛇になる理由/京伝曼荼羅/女人蛇体の文化背景をどう読むか}
II 愛欲の蛇の発見 ―仏教唱導の変容
{ハナシの記憶/海を渡る女/『諸国百物語』/『三州奇談』/禅僧と蛇性の女/龍沢寺縁起の絵解き/親鸞の大蛇済度/『二十四輩順拝図会』の描写力と物語性/蛇道に堕ちた「淫女」/「悟中禅師大蛇解脱物語』/愛欲・女人・蛇体の宗教言説}
【第二章 創られた女人蛇体 ―宗教・民俗から都市文芸へ】
I 蛇のいる近江の風景 ―竜宮・蛇身・性愛
{『妹の力』の視点/風土的なるものの記述/北陸道の蛇伝承と真宗僧/越境する略縁起/近江北陸の俵藤太伝説/近世文芸は水底の異世界をどう描いたか/湖に沈む悲恋/『是楽物語』と瀬田の唐橋/『怪醜夜光魂』/比良八荒の女/民俗は増殖する}
II 怪異小説のなかの蛇妖
{橋の下の異形/観音助ケ給へ/『奇異雑談集』の蛇身譚/魔所は湖南にあり/船わたりする妖婦/矢橋の渡し舟/湖上の逃亡者/平仮名本 『因果物語』 の虚構/陽のあたる異界
【第三章 婦霊恐怖の系譜と蛇の表象史】
I 近世・蛇帯考 ―女房の帯が蛇に見える夜
{蛇身譚における近世/二妻狂図・蛇髪譚/生活化する女人罪障思想/文芸テーマとしての邪恋/石燕・妖怪画と〈蛇のいる閨房《ベッドルーム》〉/「蛇帯」恐怖の男心}
II 執念の蛇はいかにして演じられたか
{『壬生秋の念仏』/怨霊事、悋気事の女方舞踊/元禄歌舞伎と女人蛇体/「帯」が「蛇」になる演出法/読本『霜夜星』}
III 鱗形文様の意味
{嫉妬のシンボリズム/道成寺物にみる <蛇の真似〉/蛇鱗をまとう女幽霊}
【第四章 怖い女と逃げる男の怪談美】
I 嫉妬の蛇と江戸の生活教訓
{『法華経』と竜女/直談物の系譜/『まつら長者』の意義と位相/浅井了意 『北条九代記』/我が身こそ鬼よ/『磯崎』から江戸怪談への流路/女訓の時代/日蓮伝に聴き入る女たち}
II 自戒する蛇身道成寺縁起のゆくえ
{恋をこわがる女/『道成寺現在蛇鱗』/清姫の懺悔/不道徳へのまなざし/『好色百物語』の時代特性/化けて出る貞婦/妬み心の歴史変遷/後妻打ちから悋気講へ/男のやましさ、うしろめたさ/『近代百物語』にみる逃亡のモチーフ/「吉備津の釜」の妬婦観}
【第五章 偏愛奇談の時代】
I 生首をいとおしむ女
{淀の成敗/磔刑の婦/奇異ノ儀にあらずといへども/偏愛奇談の源流/心蛇の変/蛇と化す情愛/鴛鴦の愛欲}
II 江戸怪談は恋の魔境をどう描いたか
{「繋念無量劫」と女の一念/「仏教」のようなもの/生きていた首/魔境は心のなかに/人は化け物、恋も化け物/閨の薄暗がりで/人妖論/淫女伝説/そして偏愛をみつめる現代}
あとがき