昭和58年 四六判 P301 カバー少ヤケ、端僅イタミ
“ファウストは、ルネッサンス期ヨーロッパを徘徊した実在の魔術師だった……。
ゲーテによって悩める老哲人の象徴とされた彼も、その原像は大言壮語するペテン師であり、中世的迷妄を才知で笑いとばした怪(快)人物だったのである。
本書は、民衆の英雄としてのファウスト伝説の虚と実を語り、それがやがて文学化され、ゲーテの手で永遠の生命を与えられ、その後も数多くのファウスト作品が生みだされてきた軌跡を概観する。 文学以外の演劇・音楽・漫画などの話題や、南ドイツの楽しい「生誕記念祭」の模様を交えつつ、ファウストの500年に及ぶ転生(うまれかわり)の過程の中に、人間性回復の道を探った意欲作である。”(カバー袖紹介文)
目次:
プロローグ・なぜ今、ファウストなのか
【第一章 伝説の生まれるとき】
1 ファウストの故郷へ
{一通の招待状/ファウスト博物館/ファウストの「生家」/前夜祭の盛況/ファウスト生誕五百年祭/ファウストを飾る「時代行列」}
2 実在したファウスト博士
{謎の出生/文献に現れるファウスト/魔術師ファウストの誕生/不偏不党の精神/シュタウフェンの爆音/ファウストの伝記本/破天荒のいたずら者/愛と友情/凄惨な最期}
3 もう一人の巨人、パラケルスス
{ファウストのもう一人のモデル実証精神を学ぶ/大放浪の開始/バーゼルの日々/盛んな執筆活動/壮烈な「戦死」/人造人間ホムンクルスの製造}
4 中世と近代のはざまで
{二人の生きた時代/荒れ狂った魔女狩り/錬金術から自然哲学へ/遍歴放浪の世界/二人のファウスト}
【第二章 伝説から文学へ】
1 偉大なる媒介者 ―クリストファー・マーロウ
{ファウスト、イギリスに渡る/学生スパイ/『フォースタス博士の悲劇』/インテリやくざの末路/無神論という名の信仰}
2 ファウストの救済
{民衆への浸透/レッシングの功績/「ファウスト」群作}
【第三章 時よ止まれ、お前は美しい ―ヨーハン・ヴォルフガング・ゲーテ】
天才の誕生/文学への傾倒/ヴァイマルの宰相/孤独な晩年/畢生の大傑作 『ファウスト』/神と悪魔との賭け/小世界から大世界へ/ヘーレナとの結婚/国土の建設/不思議なる宇宙}
【第四章 蕩児の遺産 ―ジョージ・ゴードン・バイロン】
愛を知らない少年/放悠な学生生活/一躍、時代の寵児に/詩劇『マンフレッド』『ファウスト』との類似点/後輩思いのゲーテ/自我悲劇のヒーロー}
【第五章 動きはあれど声はなく ―ハインリヒ・ハイネ】
ハイネの修業時代/ゲーテとの会見/ファウストをめぐるライバル/讃美と誤解/舞踏詩『ファウスト博士』/卑小なファウスト像/詩人、パリに死す}
【第六章 ファウスト、日本に現る】
1 二人の浦島太郎 ―森鴎外
{鴎外の詩と真実/『ファウスト』の大流行/鴎外の『ファウスト』/明らかな失敗作}
2 おのれてふもの ―北村透谷
{透谷の『蓬萊曲』/『マンフレッド』と『ファウスト』との類似/苦悩の彼岸/東洋的な結末}
【第七章 病める狼 ―中島敦】
{漢学者の家系/人間味のある秀才/「私」の追求/狼の病/行動こそ思索/必然と自由の等置/田中英光の不明/「言葉」と「業」}
【第八章 地獄の楽の音 ―トーマス・マン】
{ヴァレリーの『我がファウスト』/音楽家ファウスト/ニーチェの似姿/悪魔の誘惑/顔のない主人公/時の重構造/「母」の救い}
【第九章 士、不破臼人 ―手塚治虫】
{漫画のファウスト/偉大なるパロディ/もう一つの「わがファウスト」/漫画の可能性}
【第十章 ファウスト伝説の変容】
1 心優しき悪魔
{悪魔の定義/メフィストーフェレスの性格/正当性の否定者/気のいい道連れ/人生は素晴らしきゲーム}
2 ファウストよ永遠なれ
{使いすてかいろの人生/遊びの精神/ファウスト文学化の道程/脆弱化したファウストたち/シュタウフェン再び/ファウスト今いずこ}
あとがき
参考文献
ファウスト年表