1984年3刷 ページ部分24.0×18.5 P111 カバー端僅イタミ
“★ ぼくを魅了するラッカムの絵 ―宇野亜喜良
ぼくはラッカムの絵に登場する女性像に、プレ・ラファエル派の影響を嗅ぎとってしまうのだが、青年のような少女のような、ちょっと中性的な女たちがとても好きなのである。そういう女や騎士たちがグロテスクな妖怪や、ダイナミックな風景の中に点在するとき、ラッカムの絵は最高の魅力を発揮する。
ぼくの時代は劇団“四季”の公演でジロドゥの作品、フランス語読みの「オンディーヌ」 を観ているのであるが、80年代の初頭にこの話を知るのはフーケーとラッカムのコンビであることは間違いないことだろう。
★水底の国へ帰ることを宿命づけられたウンディーネ ―岸田理生
水の精、ウンディーネは、人間の女と外見は同じでも、イヴの末裔と違うのは、「魂」のないこと。そうした宿命を負ったウンディーネたちは、アダムの末裔の一人と愛し合い、妻となってはじめて魂を得ることができるのです。けれど、夫となった男が、その妻を水上で罵る時少女は水底の国へ帰らなければなりません。そして、裏切った男が二度目の妻を迎えるとき、水の娘は再び地にあらわれて、夫を殺すことがさだめられているのです。
いたずらっ子の少女が、 妻となって夫の父祖の地に行き、貴婦人のたおやかさと誇りを持った娘にかわり、水の底に帰ってゆく。
その描写の克明さと、ウンディーネに寄せる作者の愛に満ちた眼差しの中には、原作者フーケー自身の恋物語の哀しみと喜びがないまじりになっているのでしょう。そうしたウンディーネの姿は、時に私たちを笑ませ、時に哀しくさせます。”(カバー袖紹介文)
目次:
*ウンディーネに寄せる愛に満ちた眼差し ―原作者フーケーについて
第I章
森から来た騎士
十五年になる昔 少女は湖から来た
第II章
ウンディーネは離れ小島に
騎士は森の怪異を話した
苫屋での日々は蜜月のように
司祭の訪れは若夫婦を誕生させた
少女は言う。「魂は重い荷物」 と
わたしは水の娘 父は水界の王
第III章
花嫁のあとを水の影がつける
ここにひとり 帰還を喜ばぬ少女がいた
聖名の記念日に起こったこと
リングシュテッテンの城に到着したこと
泉に蓋をして水の魔を防ぐ
黒谷では怪異がひき起こされた
第IV章
三人はドナウ下りへ出かけた
夢枕に立つウンディーネの哀しみ
騎士は水底の国を夢に見た
泉は今も彼の地に残る
「あの人を涙で殺しました」
*アーサー・ラッカムのこと(宇野亜喜良)