1995年 A5判 P380 カバーヤケ大、少キズ、端少イタミ
明治から昭和初期(1930年代辺り)までの日本における、「立身出世」像とそれに付随する価値観の形成と浸透、変容、またそれらに関わる社会の変化などを、当時の書物や出来事を手がかりに探る。
“本書は、まず、1870年代の日本でたいへんな人気を得た、サミュエル・スマイルズの『セルフ・ヘルプ』(邦訳『西国立志編』)を分析する。そして、教育を受けて、俸給生活者になるという、立身出世の理想像がその後の数十年間に、一部の士族層から一般へと広がっていく中で生じたさまざまな変化を描きだす。
これはある意味では思想史である。しかしそれは、特定の個人を取り上げるような普通の意味での思想史ではなく、すべての日本のインテリが経験したある体験の変容をたどり、彼らが学校へ行き、職を得る中で共通に身につけたエートスを扱うものである。 注目するのは、日本人全体ではなくて、近代日本の政治的・経済的・文化的リーダーになることをめざしていた若者たちである。本書はまた、日本の「新中産階級」の登場の物語であり、拡大していくこの集団に加わろうとする若者たちの奮闘と挫折の物語でもある。”(カバー裏紹介文)
目次:
凡例
日本語版への序文
はじめに
1章 自助 ―S・スマイルズと中村敬宇
1 「天は自らを助くる者を助く」
2 「セルフ・ヘルプ』と品行主義
3 翻訳までの経緯
4 外来思想と伝統文化
5 『西国立志編」 の読者たち
2章 富貴のための学問
1 三つのアプローチ
2 『学問のすゝめ』
3 教育制度の整備
4 投稿雑誌『穎才新誌』
5 国家・家・立身出世
3章 政治青年
1 国会開設への関心
2 翻訳小説とその読者
3 政治小説の中の主人公像
4 徳富蘇峰と平民主義
5 蘇峰の期待と現実とのズレ
4章 「秩序正しくなりつる」社会
1 上京する青年たち
2 雑誌『少年園』
3 就職機会の構造と競争
4 秩序ある勉強の快楽
5 蘇峰と透谷
5章 成功青年
1 日清戦争と軍人熱
2 実業ブーム
3 雑誌『成功』とその方針
4 苦学・通信教育の道
5 代替ルートの模索
6 帝国主義への転向
6章 煩悶青年
1 藤村操の自殺
2 煩悶青年出現の原因
3 学歴の価値低下
4 煩悶と成功
5 国家から私的世界へ
7章 新しい世代の新しい価値観
1 煩悶青年への対応
2 過大な野心の「冷却」
3 雇われ人に必要な美徳
4 マ ーデンの著作の人気
5 「品行」から「人柄」へ
8章 「サラリーマン」の時代へ
1 「腰弁」の増加と第一次世界大戦
2 「サラリーマン」受難時代
3 高学歴青年たちの就職難
4 不況下の就職戦線
5 入社試験に求められたもの
6 ささやかな出世をめざして
7 「煩悶」のゆくえ
結論 近代日本社会と青年
1 サラリーマンの歴史
2 日本における個人主義
3 危機への対応
4 日本の経験から学ぶもの
注
訳者あとがき