昭和55年 新書判 P234 ビニールカバー欠 帯背少ヤケ 本体上端少イタミ
“近代日本が見失った豊饒な伝奇・幻想ロマンの可能性を拓く”(帯文)
“読まれざる江戸読本の傑作『南総里見八犬伝』は、近世文学の新しい鉱脈としてその真価が再評価されつつある。こうした機運を迎えて、卓抜な典拠論で注目される著者が壮大な謎の言語空間の内部構造を照らし出し、幾重にもはりめぐらされた物語の仕掛けを解く。伏姫と八房の異類婚姻譚を核とする八犬士生成の背後にひそむ密教秘儀的な図像を突きとめ、伝奇・幻想に富むロマンの原基的イメージを浮かび上がらせる過程は実に興味深い。”(帯裏紹介文)
目次:
【序章 一葉のロ絵から】
{「八犬士髻歳白地蔵之図」/白地蔵カクレアソビの矛盾/絵師の錯覚か?/二人の童女}
【第二章 伏姫曼陀羅】
I 玉梓悪霊譚
{円地文子氏の『八犬伝』評/北村透谷の構造論的把握/玉梓の呪詛と悪霊の物語的復権/三典拠の顕示/里見伝承と金碗八郎/癩者伝説/伏姫出生の神話的背景/神話と異常誕生譚/安房の霊神/仁義八行の珠数/役の行者の稗史的設定/悪霊の犬/里見義実の「言の咎」/伏姫物語のきわどさ/伏姫の「畜生道」/伏姫の純潔/文章の華麗と音楽性/神聖受胎/「物類相感」論のアニミズム的世界/伏姫のジレンマと破局/八玉の飛散}
II 犬祖神話と『水滸伝』
{二つの典拠/槃瓠説話の原話/『太平記』の槃瓠説話/畑六郎左衛門/怪談集の中の槃瓠説話/「犬智入」民話/『犬夷評判記』の示唆/犬祖神話の融合/止水の面影/「狗宝」の理学/馬琴の「珠」の崇拝/『水滸伝』ブーム/伏姫割腹と『水滸伝』発端部の違い/伏姫像と大地母神性の融合/八玉の血縁共同性/馬琴の『水滸伝』翻訳経験/影の仁宗皇帝伝/『水滸伝』の予言から『八犬伝』の象徴主義へ/幻の里見七犬士伝/「化星七英将」/「わが犬人伝承の数値は〈七〉 だった」}
III 八字文殊曼陀羅
{典拠の変容と加工の方法/「典拠公開」の魔法/秘匿された別の典拠がある?/「女武者」にっいての馬琴の答述/「文外の画、画中の文」/唐獅子牡丹/狸と拍犬/騎乗の神性/騎乗の魔性表示/「八字文字」 と「八字文殊」/八字文殊聖像/文殊八大童子/八犬童子と八犬士/『八犬伝』の内なる秘儀的方法/牡丹の聖痕の謎も解ける/運命の司祭者はなぜ「役の行者」なのか/犬と神の間/文殊侍者、善財童子}
【第三章 唐獅子牡丹の系譜】
I 八犬士、その虚構の条件
{「犬士列伝」を読むために/房総里見氏廃絶録/家康のワナに陥る/殉死八賢士/異名としての八犬士/「若獅子」の幻影/孤児としての犬士/薄命不遇、悲劇的な出自/江戸美学としての〈やつし〉/犬塚信乃の物語/両性具有者と 「シバルリイ」/浜路の物語/聖玉「孝」の字意は何か/芳流閣の血闘と「天の経」/八犬士の戸籍簿}
II 輪廻転生と「神体示現」の世界
{「倚伏」の方法/山林房八/「名詮自性」の因果論/神体示現の象徴性/犬士の「首」/親兵衛の戦い}
III 鬼話怪談の迷宮
{化政期の読者の好み/犬山道節、火坑からの登場/土中の蘇生者/復讐のラジカリズム/刺客と影武者/二つの路線と「稗史七法」/管領定正の「悪」の組織図/荒芽山の怪談/「愛発山」伝説との脈絡/船虫の話/赤岩庚申山/妖獣と犬士/魑魅魍魎が棲む国/伏姫物語と化猫魔界}
IV 「郷士」の視点
{閉ざされた「意味」空間/「江戸」古地誌と開拓郷民幻想/氷垣残三夏行/「郷士」の視点/結城合戦の意味}
【終章 星の秘儀空間】
{結像する言語の曼荼羅世界/多神教シンクレティズム/「星」と「玉」のアナロジイ/滝沢家の星祭/星の秘儀空間}
『八犬伝』製作年表
あとがき