昭和51年 文庫判 P282 カバースレ、少汚れ 小口からページ端にかけてヤケ P25下角折れ跡
“私が『鬼の研究』において求めようとしたものは、鬼という異形の思想にかくれて生きた人々のあったことへの
嵯嘆であった。説話や民話、伝承の主人公として、さまざまの変容を重ねつつ滅び、滅ぼされていった鬼たちの精神史は、どこを取り上げても、より人間的な存在への意志や心の葛藤を感じさせる。鬼の歴史に一貫する隠徴な情念の暗さ、そうした暗さにしか生きられなかった日本の怪・力・乱・神の存在こそ、最も先鋭な歴史の反照部分であったといえよう。―「あとがき」より”(カバー袖紹介文)
奈良〜平安期頃の古い文芸、史書、辞典といった書物を中心に、芸能や民間伝承なども逍遥。「鬼」の性質・表現とその歴史について考察する。
目次:
はじめに ―鬼とは何か
一章 鬼の誕生
1 鬼と女とは人に見えぬぞよき {「虫めづる姫君」の慨歎/籠れる鬼の重之妹/四条宮筑前の君/『倭名類聚抄』の見解}
2 〈おに〉と鬼の出会い {鬼・神同義説/鬼と日本の〈おに〉/鬼の面貌/西行人を造る}
3 造型化のなかの鬼 {〈おに〉の訓を得た〈鬼〉字/造型化される鬼/『山海経』は影響したか}
二章 鬼を見た人びとの証言
1 鬼に喰われた人びと {阿用の一つ目鬼/初夜の床に喰われた女/あぜ倉に喰われた業平の思い人/武徳殿松原に喰われた女/官の朝庁で喰われた弁官}
2 鬼の幻影 {幽霊と鬼/鬼の足跡と衣冠の幻/征箭の調伏}
3 百鬼夜行を見た人びと {一条桟敷鬼のこと/百鬼夜行とは常行・師輔鬼に遇う/竜泉寺の修業者鬼に遇う/溜取りの鬼}
4 牛頭鬼と羅剎女と地獄卒 {「牛頭鬼」による殺害事件/羅利に出遇う/鳩槃荼鬼の描写/現世を歩く地獄卒}
5 衰弱する〈ぬし〉の系譜の鬼 {〈ぬし〉とは何か/家霊としての〈ぬし〉/左大臣融の霊鬼/人なき堂屋に棲む〈ぬし〉の鬼/鬼をよせつけぬ心とは/冷泉院の水の精の翁}
6 完成にむかう鬼の典型 {羅生門の鬼/鬼の出現する場所/「肝だめし型」から「武勇譚型」へ切断される老母の手/武勇者と美女/他界との問答と絆を切る剣}
三章 王朝の暗黒部に生きた鬼
1 鬼として生きた盗賊の理由 {童子を名のる大江山の鬼/二つの大江山と酒呑童子/山拠の生活をもった人びと/王朝暗黒社会の不可解性/鈴鹿御前立烏帽子/鬼使い千方/鈴鹿御前の問題点/悪路王叛乱と鈴鹿の鬼/鬼の拠点としての鈴鹿山・関山/戸隠の鬼女/女盗人のものがたり/鬼族としての盗人魂/鬼として生きた特殊階級の人びと/平六の社会復帰}
2 土蜘蛛の衰亡と復讐 {土蜘蛛誅殺と先住権/土蜘蛛の復讐}
3 雷電と鬼 {日本の神と雷電/雷電と鬼/菅公の御霊としての雷電}
4 鬼の心と呪術の世界 {生きながら鬼となること/愛の変節を責める/女の鬼/六条御息所と羞恥の鬼/砧の怨みと鬼ごころ/恋の鬼葛城上人/鬼使いと外術}
四章 天狗への憧れと期待
1 幻の大会 {天狗幻術の「大会」/天狗幻術は作用したか}
2 天狗と飛行空間 {天狗の星/天狗と神仙思想/鬼のヘ〈あはれ〉と天狗の〈をかし〉/花月少年と天狗思想}
3 無道の智者 {無道の智者としての天狗像/猿田彦とベシミの面/迫害される天狗/天狗説話の生長と展開/姿なき風雅}
4 天狗山伏 {山伏と天狗}
五章 極限を生きた中世の鬼
1 中世破滅型の典型としての般若 {小面と般若/半蛇と般若』
2 空無の凄絶をもった美 ―「黒塚」考 {黒塚歌話と鬼/シカミ「黒塚」と般若「黒塚」/「黒塚」の美学}
3 白練般若 {〈真〉の般若六条御息所/般若の〈艶〉と〈怨〉/般若の悟り}
4 一言主の愁訴と棄民山姥 {一言主の愁訴/山に棲む遊女/山姥/山姥の哲学}
おわりに ―鬼は滅びたか
文庫版あとがき
解説(池田弥三郎)