1993年 文庫判 P322、324+索引P20 各巻カバースレ、少キズ、少汚れ、少イタミ、背ヤケ
【上巻】
“咲く花に時勢や人生の全盛を、落ち葉に凋落を、秋の夕暮れに寂莫を重ね合わせてきた日本人の繊細な感覚。それを最もよく示す季節感の変遷を、各々の時代を特色づけた文芸作品や思想の中にさぐり、日本人独特の心の歴史を究明する、創見に富んだ日本精神史。本巻では、万葉・古今・新古今から、芭蕉にいたるまでの、自然と生活が密着していた時代の日本人と季節の関わりを描く。”(カバー裏紹介文)
目次:
初版はしがき
序論 日本人の感受性の特色 ―感性の論理―
一 万葉集における「見れど飽かぬ」について
二 古今集における「思ふ」について、及び王朝末、中世初期に現はれた「心」への懐疑と否定
三 「思ふ」から「見る」への回帰、及び「見る」ことの深化
四 春と秋といづれまされる
{額田王の歌/歌合/物合/王朝の優雅}
五 季節のよびよせ
{桜狩、紅葉狩/草木を庭に移す/香を袖にうつす/草木染/草花の文様/文付枝}
六 四季の色どり
{宇津保/源氏/枕草子}
七 古今集の四季の部立及び配列の仕方の問題
{冬歌の少いのはなぜか/古今集巻頭歌の問題/生活の季節から暦の季節へ}
八 秋への傾斜
{定家の「見渡せば」の歌の真意/秋の夕暮の美学/見渡す、詠むについて/月の世界への関心/白の美、ロマンチシズム/世にそむくこと/中世へ}
九 冬の美の発見
{雪と氷/歌人の限界/道元の不染汚、大地雪漫々/余情、幽玄/余白/否定の介入、死中の生/中世の一性格}
一〇 冬の美
{世阿弥の幽玄/時分の花から真の花へ/花から雪へ/空から色への却来/心敬の幽玄/冷え寂び/氷ばかり艶なるはなし}
一一 否定の美学
{一言芳談の聖たち/ただ生をいとへ/とく死なばや/死にいそぎ/吉田兼好の生き方/乱世の賢人/存命のよろこび/否定による美の現出/動十分心動七分身/能面の美/水墨の美/枯山水/石の発見/わびとわびきどり}
一二 新なる季節
{万物みな新なり/物理的時間と歴史的時間/道元の家系/「詩歌を捨てよ」の意味/「而今の山水は古仏の道現成なり」/「遍界、曾て蔵さず」/存在と時間の間題}
一三 季節の実相
{大燈国師/「常に憶ふ江南三月裏」/良寛/唯聞く落葉の頻なるを/風流の源底}
一四 芭蕉の発明
{芭蕉の風雅、「造化に従ひ造化に帰れ」/「風情つひに菰をかぶる」/存在は風雅の種/俗談平話を正す/連句のおもしろさ/付合の問題}
補遺 『撰集抄』の脱体制者たち ―その歴史的叙述―
【下巻】
“自然と共に生きてきた日本人の繊細な季節感の変遷を、文芸作品や思想の中にたどり、日本人の心の歴史とその骨格を究明する、創見に富んだ日本精神史。
本巻では、西鶴から、禅・儒教の思想などを経て現代に及び、自然・季節を生活から疎外することをもって進歩と考えるにいたった現代文明の傾向を鋭く批判する。”(カバー裏紹介文)
目次:
一 西鶴の登場 ―中世から近世へ―
{正宗白鳥の西鶴論/雪月花の色里化/新しい偶像、太夫浮世之介/町人の限界/古典の俳諧化、庶民化/『犬筑波』/『閑吟集』/一休における中世と近世/自己告白禅/憂世から浮世へ/西山宗因/西鶴の『日本永代蔵』/西鶴における季節}
二 禅から儒へ
{宋学、朱子学の性格/仏、道、儒の折衷/太極図説/道元の三教一致批判/宋代の士大夫禅、五山制度/大応、大燈、関山、夢窓/剃髪の俗人/詩僧、儒僧/五山僧の功罪/権力と仏道/聖/徳川政権の思想統制/藤原惺窩/体系の学としての朱子学/御用化}
三 義理と人情
{くるわ/忘八/人情/伊藤仁斎の仁愛説/近松における義理と人情}
四 道行
{『天の網島』『曾根崎心中』の場合/『浄瑠璃姫物語』/古今/源氏、また季節の景物の装飾化、模様化/十二単衣姿/浮世絵の遊女姿/近松の道行の魅力/安土桃山時代、徳川時代における装飾過多の傾向/人間中心、政治中心の時代/鎖国による萎縮/芸術、また季節のくるわ化}
五 擬古
{『仮名性理』の美文調の序/擬古の文体を作った心理と時代/意識/小堀遠州の迎合/沢庵と将軍家光/桂離宮の改造/部分の装飾過多/絶対政権下の芸術家の頽廃/本居宣長の擬古の対象/古道の体現/道とは何か/儒学の作為/人智の有限の自覚/まごころ/「後の世」のつくりごと/ものまなびの道/もののあはれ/人のまことの情/一種の自然主義/古事記の神ながらは宣長の理想、当為/宜長の散文が論理的、合理的であること/まごころ、もののあはれの内容と論証的態度との矛盾/宣長の弱点/歌論、作歌論と実作/擬古的精神の制限/徂徠と宣長}
六 風雅から実証へ
{儒風の三変/文人気質 南郭、蕪村、抱一、鵬斎、南畝等/徳川中末期における随筆の流行/池大雅/文人気質の否定/態としての藩校/明治の藩閥政府下の文人、柳北、枕山、荷風、漱石/雅号の喪失/文人気質に抵抗した実証主義、『蘭学事始』/昌益の『自然真営道』/司馬江漢の写真論/福沢諭吉の実学/附記、安藤広重の雨と雪}
七 外国人の見た日本の風光・風物
{擬制、擬装から事実へ/ゴンチャロフの記述と世界情勢/ペルリ、ハリス/ハーンの日本観、風土と人間/無常感と自然美/モラエス、緑の国/タウト、自然の中の人間/フレーザー、自然の小撰集としての庭/コラール、植物的文化}
八 東洋的なものと西洋的なものとの葛藤と融和
{漱石の場合、文学とは何かの問題、外発的文化と自己本位/鴎外の場合、二本足の学者/内村鑑三の場合、クリスチャン・サムライ/西田幾多郎の場合、道と学/明治と大正の相違/阿部次郎の「あれもこれも」、世界人/和辻哲郎の日本文化の重層性、解釈学/「白樺派」の人類と個性/芥川龍之介の不安}
九 写生
{自然や季節と疎遠になった徳川時代/明治二十年までは実学、欧化の時代/「疾風怒濤」の二十年代、新しい詩心、北村透谷/散文詩の出現、蘆花の『自然と人生』と独歩の『武蔵野』、自然の復活/長塚節の写生、「余は天然を酷愛す」、『土』、「自然・自己一元の生」}
一〇 現代文明の自然・季節
{美の終焉/春は来た、どこに来た/志賀重昂の『日本風景論』、江山洵美/自然・人心の荒廃の原因、近代の合理主義、科学技術文明、経済優先/現代批判、森有正の「もの」、前田俊彦の「つくる」/造化とは何か、人間の有限性の自覚}
初版あとがき
筑摩叢書に収めるにあたって
解説(高橋英夫)
索引