1979年　四六判　P349　カバー端少縛り跡　天・小口時代シミ多

“芭蕉や馬琴にとって、病気とは何であったろうか。それは、生命への脅威であると同時に、非日常的な世界を発見し、より深い宇宙と対話する、かけがえのないきっかけであったろう。
江戸時代、環境に恵まれた将軍の子女でさえ、その大半が乳幼児のうちに死亡、ひとたび疫病が猛威をふるえば大量の死者を算した。そういう時代である。死とつねに隣合せで生きていかなければならないだけに、生命に対するおそれも、それだけ深い。だから、彼らは心をこめて病気とつき合い、執拗に病気を記録した。
医学が進み、医療が高度に機械化・システム化された今日、わたしたちは病気を真剣にみつめ、語りつぐ心を喪いがちである。本書は病むことの意味を問い直すことによって、〈現代〉への根源的な反省を迫るものである。”（カバー裏紹介文）

目次：
はじめに

序話
　一　お松の場合　｛身のをきおころなくあんし候／道中ほうそうノ有所｝
　二　馬琴の場合　｛歯牙皆脱了、自笑に堪たり／衰眼実にせんかたなし｝

第一部
　一　庶民の証言　｛太平病・近世病／江戸時代の疾病構造／江戸庶民の病識―疝気と癪｝
　二　外国人の証言　｛日本人の体質／気候と疾病／眼病／梅毒／痘瘡／コレラ／結核・精神病ほか｝

第二部
　一　飢饉と疫病　｛飢疫・疫癘／元禄・宝暦飢饉の場合／天明飢饉の場合／時疫の正体／天保飢饉の場合／「時疫御触書」｝
　二　異常気象とインフルエンザ　｛江戸時代の異常厳冬／インフルエンザの流行／流行の速度と経路｝

第三部
　一　痘瘡　｛痘瘡の病態／疱瘡神／疱瘡祭／疱瘡絵／酒場／妊婦ふさの場合／疱瘡山／種痘山哀歓｝
　二　梅毒　｛梅毒の蔓延／一町医の梅毒歴／梅毒患者の実態／娼婦寿の場合｝
　三　結核　｛振袖火事と労咳／労咳の病態／思春期と労咳／当世顔と労咳｝
　四　コレラ　｛安政コレラ／埋葬の混乱／流言と俗信／「死人書上」｝

第四部
　一　食生活と病気　｛町人の食事／農民の食事／食生活と栄養／食あたり／米食と脚気｝
　二　寄生虫病と風土病　｛寄生虫病／片山病（日本住吸血虫病）／おこり（マラリア）／恙虫病／野兎病｝
　三　女と子どもの病気　｛子おろし／産前・産後の病気／乳ガン／幼いいのち／子どもの病気／子どもの生と死｝
　四　精神病　｛江戸の狂女／精神病の病態／精神分裂病／神経症／憑きもの／精神医療／精神病と犯罪｝
　五　鉱山病　｛江戸時代の鉱山病／鉱山病の実態と対策｝

第五部
　一　医療環境　｛病気と土俗信仰／民衆と医療／民衆と薬／医療費｝
　二　平均寿命　―どれだけ生きられたか―

あとがき