1980年初版 文庫判 P343 カバー僅クスミ 小口からページ端にかけてヤケ
1980年初版 文庫判 P343 カバー僅クスミ 小口からページ端にかけてヤケ
“わたしは、あの夜起こったかれの犯罪を、嵐の12時間を順を追って克明に書いておきたい。8月のとある夕刻、大嵐が近づいていた。居丈高で激情的な双児の兄トム、家政婦で魔術師のナン、狂った伯母、ドイツ移民の末裔で使用人のモーリス、助けを求めて避難してきた連中……それぞれの部屋を板でぶざまに釘づけして籠ったが、嵐は、息ながら棺桶に閉じこめられ、無数の悪魔が金切声を上げながら拳で蓋を叩くようなすさまじさになってきた。家はうずき、梁は苦痛と恐怖の叫びを上げ、なにより暗いのは耐えられなかった。
トムとモーリスは発電機を修理するためぐごうと音をたてる闇へと消えていった。やがて、どしんとぶつかる音がして、トントンとノックする音が嵐の金切り声を衝いてはっきり聞えた。閂を上げ、バタンと扉が開きと雨、風、ごみとともに倒れこんできたのは首なしのモーリスの死体だった。こうして背筋も凍る異常な死の幕が切って落されたのだ……。”(カバー裏紹介文)